「上田誠也東大名誉教授に聞く」~地震予知研究は前兆現象探求~を読んで

H27整備範囲HP用原_0603出典: 国土地理院
地震予測サービスを提供する地震解析ラボにもアドバイザーとして名を連ねている東京大学名誉教授 上田 誠也(うえだ せいや)氏のインタビュー記事を見つけたので読んでみました。

上田誠也東大名誉教授に聞く:時事ドットコム 2013年9月11日(水)

 
 

上田誠也東大名誉教授に聞く

記事を読み、内容をまとめてみました。

・内閣府の調査部会(座長・山岡耕春名古屋大教授)は2013年5月の報告書で「現在の科学的見地からは地震の規模や発生時期を高い確度で予測することは困難」との見解を公表。

・日本地震学会も12年10月に発表した行動計画に「地震予知は現状では非常に困難」と明記。

・地球物理学者で日本学士院会員の上田誠也東大名誉教授は日本におけるプレートテクトニクス研究の第一人者。

・上田誠也氏は東大教授を定年退官後、専門の地震学とは別の科学的見地から、短期的予知は可能とする「地震予知学」を提唱。

予知研究は前兆現象探求

・地震計で地震の揺れ(地震波)を観測し、地球や地震のことを研究するのが地震学(seismology)で、大きく分けて2つある。

・1つは、地震波を媒介として地球の内部構造(地殻・マントル)を調べる学問。

・もう1つは、地震波によって地震そのものを調べるのもの(earthquake seismology)。

・しかし、地震学は地震予知にはあまり役に立たない。

・地震予知は「何年後に何%」ではなく、「1週間、1ヶ月以内に起きる」といった短期予知でなければ意味がない。

・地震の短期予知を行うには、前兆現象を捉えなければならない。

・しかし、地震学は、地震が起きてから発生する地震波を研究する学問なので、前兆現象は捉えられない。
(ブログ管理人注:本震の前に発生する弱い前震を前兆現象と見るならば、地震学で前兆現象を捉えられる、ということになります。ただ、熊本地震を見る限り、前震と本震の区別も付かず、地震予知には役に立っていないという印象です)

・1965年に始まった地震予知計画では、この地震学しかやってこなかった。

・多くの地震計を設置して、地震観測のデータが蓄積すれば、地震予知ができるかもしれない、という建前だった。

・地震学では前兆現象を捉えられない、と当事者は認識していたが、地震計測以外のことをほとんどしなかった。

予知情報が出たことはない

・1978年に大規模地震対策特別措置法が制定され、1979年に東海地震の直前予知を目的として「地震防災対策強化地域判定会」が設置された。

・法律の目的は、地震予知が可能になったら政府がやらなければならないこと(電車を止める。銀行を閉める。学校を休みにする。病院の対応をする等)を法整備化することだった。

・しかし、作業を進めるうちに、地震予知はできるものだ、ということになってしまった。

・東海地震の予知については、地震学ではなく測地学(地盤の上下の動きなどを測る学問)に依っている。

・気象庁は東海地域に地震計ではなく、地殻変動を測る「ひずみ系」を大規模に設置している。

・これにより、1944年に起きたM7.9の東南海地震の直前に御前崎周辺の地盤が上昇したのと同じような前兆現象を捉えられる可能性はある。

・しかし、気象庁が御前崎の地殻変動を捉えたとしても、政府は警戒宣言を出さないだろう。

・もし何も起こらなかったらどうなるか、と考えてしまう。

・技術的問題と、この心理的理由から、今まで短期予知された地震は1つもない。

地震の寸前に地電流に異常

・地面の中にはある程度の電気伝導性があり、地磁気の変化で誘導電流が起きたり、電車が走れば電流が流れたりと、地中には電流が流れている。

・VAN法(Varotsos-Alexopoulos-Nomikos method)というギリシャの地震予知研究は、この地電流に出るだろう地震前兆の信号を捉える、という研究。

・VANは3人の物理学者の名前のイニシャルで、3人の研究者は地震の寸前に地電流に異常が起こると主張。

ギリシャではVAN法による予知に成功

・数年前までは、前兆信号が出てから2週間から数カ月以内に地震が起こる、という時間精度だったが、ここ数年は、ある種の信号が出てから数日以内、にまで短縮された。

・VAN法の警告通りに起こった地震は数十例で、年に1つぐらいの頻度。

・VAN法による地電流の観測は、ギリシャ国内で10カ所ほど。10カ所程度あれば事足りるとなった。

・日本国内では、電車の影響等でノイズが入り、地電流の観測は難しい。

・日本国内では、電波の伝わり方の変化の方が容易に観測できる。

・電波の伝わり方の変化として、電波が伝わる経路、主に地球を取り巻く電離層に変化が起きる。

「地震ムラ」はなぜできた

・ブループリントによって多額の国家予算が付いた。
 ※ブループリントとは、1962年に有志の地震予知計画研究グループが発表した「地震予知-現状とその推進計画」が正式名称の提案書。これを基にして、1965年から「地震予知計画」がスタート。

・地震学者は、地震計をたくさん並べて観測網を充実させることに予算を使った。

・観測所を作って人も雇って、翌年以降も予算が付くという体制ができてしまい、別のことに切り替えることができなくなったのが「地震ムラ」。

・決まった額の国家予算の中で、地震計が増えて観測する人も増えて予算を独占してしまい、地震以外の観測にお金も人も行かなくなった。

・ブループリントには地震の観測だけではなく前兆現象の研究も書かれていたが、地震ムラでは前兆現象の研究は行われなかった。

・地震学者は地震の観測だけでは短期予知ができないことを認識していたが、できないとは言わなかった。

・地震の観測により、地震のメカニズムを解明すれば地震の発生をつかめる可能性がある、と考えた。

・日本には多くの地震観測網があり、「東日本大震災の前に震源がだんだん移動していった」「ある値が変わった」等の成果も、最近(2013年時点)の地震学では出てきた。

・地震学の成果が役に立つ気配は見えてきたが、上田誠也東大名誉教授は「地震学」とは別に「地震予知学」の講座を大学に設けて、研究者を少しでも増やすべきだと提唱する。

予知研究の予算は1700万円程度

・日本で地震の短期予知をやろうと言う研究者は20人ほど(2013年時点)。

・電波工学者、電離圏研究者、物性物理学者が大勢で、生物学者もいる。地震学者はあまりいない。

・何らかの予算が付いているのは、北海道大学と東海大学ぐらい。

・地震ムラは年間数百億円の予算を使っているが、14の大学が参加する大学における地震予知研究名目の予算は4億円程度。

・その予算の大部分は地震学者が使い、地震学以外には1700万円程度しか付かない。

・地震の前兆現象は、前兆現象ではあっても地震を起こす原因にはならないから、地震学者は興味を持たない。

・このように、地震予知は地震学の目的にはならないから、地震学以外には予算が付かない。

・しかし、前兆現象についてこそ、基礎研究を十分に行わなければならない。

・地電流、地磁気、ラドンガスの濃度の変化、地下水の変化など、どれが科学的に意味があるものなのか、それらはなぜ発生するのか、などの基礎研究が必要。

・これらを研究講義する「地震予知学」講座を「地震学」講座とは別に大学に設置するべきだと、改めて上田誠也東大名誉教授は主張する。

・また、仮に地震が予知できても政府は警戒宣言を出さないだろうから、地震予知情報を出すのは民間セクターの仕事にした方がいい、とも上田誠也東大名誉教授は考える。

ソース:上田誠也東大名誉教授に聞く:時事ドットコム 2013年9月11日(水)

地震予知研究の現状について思うこと

現在の地震予知(地震予測)は、現在の科学では地下の動きをリアルタイムで詳細に観測することが難しいため、現状でも可能な代替手段で観測できる現象を観測しているために、精度が落ちて地震予知も外れる。

と、当ブログの別記事でも書いたように、思っていたのですが、この上田誠也東大名誉教授のインタビュー記事を読むと、地震計による地震波の観測では短期予知はできないとわかりつつ、地震学者はそれしかしてこなかった、とありました。

それでも観測データがたまれば、地震のメカニズムが解明されて地震の発生をつかめる可能性がある、と地震学者は主張するようですが、上田名誉教授は、もっと直接的に地震の前兆現象を研究する「地震予知学」の講座を大学に作るべきだと主張しています。

「地震ムラ」については国家予算を独占しているとし、元記事には、「原子力ムラ」と同じく産官学の共同体ができてしまった硬直的な組織、と強い口調で批判的に書かれていました。

地震関係のテレビ会見やニュースを見ていると、学者や気象庁が「地震予知はできない」と言えば、マスコミも反論せずに信じてしまう、ような印象を持ちます。
「原子力ムラ」と同じように「地震ムラ」というものがあるならば、科学ではなく政治が動いているのでしょうから、マスコミももっと批判的に突っ込んだ質問をすればいいのに、と思ってしまいます。

一方で、上田名誉教授側の言い分ばかりを信じるわけでもなく、「地震予知」と言うと、一般的に「超能力」と同じような眉唾感があります。

科学的に因果関係がはっきりとした前兆現象を捉えての「地震予知」ならば、たぶん信用できますし、上田名誉教授も、その研究を進めるために予算や「地震予知学」が必要だと言っているので、この分野は、どんどん研究が進んで欲しいと思います。

(一般人である)ブログ管理人の考えとしては、理想は、地下の動きによる副産物でしかない前兆現象ではなく、「地下の動きそのもの」を観測した上での「地震予報」を出せるようになって欲しいのですが、観測技術の進歩が望まれます。
(「地下の動きの観測」ならば、地震学者による地震計やひずみ計での観測と同じ方向性だと思いますし、両者のいい接点にもなると思うのですが)

 
 
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