ビジネスの現場において、数値データを直感的に理解してもらうために、Excelでのグラフ作成は欠かせないスキルです。
膨大なデータを表のまま提示するよりも、適切なグラフに変換することで、傾向、比較、推移などが明確になり、プレゼンテーションや資料の説得力が向上します。
今回は、Excelでグラフを作成する基本的な手順から、相手に伝わりやすいグラフに仕上げるためのカスタマイズ方法、状況に応じた適切なグラフの選び方について解説します。
グラフ作成の準備
きれいなグラフを作成するための第一歩は、元となるデータの整備です。グラフの元データが適切に整理されていないと、意図した通りのグラフが生成されない場合があります。以下の点に注意してデータを準備します。
- 1行目の見出し: データの1行目には、必ず項目名(「売上」「年月」「商品名」など)を入力します。これがグラフの凡例や軸ラベルとして使用されます。
- 空白行・空白列の削除: データ範囲の中に空白の行や列が含まれていると、グラフが途切れたり、空白として認識されたりする原因となります。連続したデータ範囲を作成します。
- セルの結合を避ける: グラフの元データとなる表では、セルの結合は避けることが望ましいです。結合されていると、データの範囲選択が正しく行われないことがあります。
- 表示形式の統一: 数値データは文字列ではなく数値として入力し、桁区切りや通貨などの表示形式を整えておきます。
基本的なグラフの作成手順
データが準備できたら、実際にグラフを作成します。ここでは最も一般的な手順を紹介します。
1. データ範囲の選択
グラフ化したいデータが含まれるセル範囲を選択します。項目名(見出し)を含めてドラッグして選択するのがポイントです。
もし、離れた場所にある列(例えばA列とD列など)をグラフ化したい場合は、まず1つ目の範囲を選択し、次にキーボードのCtrlキーを押しながら2つ目の範囲を選択します。これにより、必要なデータだけをピックアップしてグラフ化できます。
2. グラフの挿入
データを選択した状態で、画面上部のリボンメニューから「挿入」タブをクリックします。「グラフ」グループ内に、棒グラフ、折れ線グラフ、円グラフなどのアイコンが並んでいます。
どのグラフがデータに適しているか判断が難しい場合は、「おすすめグラフ」ボタンをクリックします。Excelがデータの傾向を分析し、最適と思われるグラフの候補をプレビュー付きで提案します。これを利用することで、選択ミスを防ぐことができます。
3. ショートカットキーによる作成
頻繁にグラフを作成する場合、ショートカットキーを覚えておくと効率的です。データ範囲を選択した状態でAlt + F1キーを押すと、瞬時にデフォルトのグラフ(通常は集合縦棒グラフ)が現在のワークシートに作成されます。
グラフの構成要素の理解
作成されたグラフを編集する際に、各部の名称を覚えておくと作業がスムーズに進みます。
- グラフエリア: グラフ全体を含む背景領域です。
- プロットエリア: 実際に棒や線が描画されている領域です。
- グラフタイトル: グラフの上部に表示される表題です。
- 凡例(はんれい): どの色や線がどのデータを表しているかを示す説明書きです。
- 横軸(項目軸): 通常、グラフの下部に表示される項目名(月、商品名など)です。
- 縦軸(数値軸): 通常、グラフの左側に表示される数値の目盛りです。
- データ系列: グラフ化された数値データそのもの(棒や折れ線など)を指します。
グラフの見栄えを整えるカスタマイズ
デフォルトで作成されるグラフはシンプルですが、資料として提出するには情報の補足や調整が必要です。グラフを選択するとリボンに表示される「グラフのデザイン」および「書式」タブを使用して編集します。
グラフタイトルの編集と書式設定
グラフタイトルは、そのグラフが何を表しているかを一言で伝える重要な要素です。タイトル部分をクリックしてテキストを編集します。「2023年度 上期売上推移」のように具体的かつ簡潔な名称にします。
タイトルのフォントサイズを大きくしたり、太字にしたりすることで、視認性を高めることができます。「ホーム」タブのフォント設定や、「書式」タブのワードアートスタイルを利用して装飾することも可能です。
軸ラベルの追加
縦軸や横軸が何を表しているか(単位:円、人、個数など)を明記するために、軸ラベルを追加します。
- グラフを選択し、「グラフのデザイン」タブの左端にある「グラフ要素を追加」をクリックします。
- 「軸ラベル」から「第1縦軸」または「第1横軸」を選択します。
- 追加されたテキストボックスに適切なラベル(例:「売上金額(万円)」)を入力します。
データラベルの表示
具体的な数値をグラフ上に直接表示したい場合は、「データラベル」を追加します。「グラフ要素を追加」から「データラベル」を選択し、表示位置(「外側」や「内側」など)を指定します。これにより、ユーザーは目盛りを追わなくても正確な数値を把握できるようになります。
凡例の位置調整
凡例の位置はデフォルトで下部に表示されることが多いですが、グラフの形状によっては右側や上部に配置した方が見やすい場合があります。「グラフ要素を追加」>「凡例」から、配置場所を変更できます。グラフの描画領域(プロットエリア)を広く取りたい場合は、凡例をグラフエリアの空いているスペースに重ねて配置することもあります。
複合グラフの作成(2軸グラフ)
単位の異なる2つのデータを1つのグラフで表現したい場合(例:棒グラフで「売上金額」、折れ線グラフで「前年比」を表示するなど)は、複合グラフ(2軸グラフ)を使用します。
複合グラフの設定手順
- 通常のグラフと同様に、全てのデータ範囲を選択して、一旦「集合縦棒」グラフを作成します。
- 作成されたグラフを選択し、「グラフのデザイン」タブの「グラフの種類の変更」をクリックします。
- 「すべてのグラフ」タブの左側メニューから「組み合わせ」を選択します。
- データ系列ごとにグラフの種類を指定できます。例えば、「売上」は「集合縦棒」、「前年比」は「折れ線」に設定します。
- さらに、単位が大きく異なる系列(例:売上は数百万、前年比はパーセント)の場合は、数値が小さい方(この場合は前年比)の「第2軸」のチェックボックスをオンにします。
- 「OK」をクリックすると、左右に異なる目盛りを持つ複合グラフが完成します。
複合グラフを使用することで、相関関係のある複数の指標を同時に可視化でき、高度な分析が可能になります。
グラフの配置とサイズ調整
作成したグラフは、Excelシート上のオブジェクトとして扱われます。見やすい位置に移動したり、サイズを調整したりすることができます。
移動とリサイズ
グラフエリア(グラフの空白部分)をドラッグすると、グラフ全体を移動できます。また、グラフの四隅や辺にあるハンドル(白い丸)をドラッグすることで、縦横のサイズを変更できます。セルの枠線に合わせてきれいに配置したい場合は、キーボードのAltキーを押しながらドラッグすると、セルのグリッド線に吸着して配置・リサイズされます。
グラフの移動(別シートへの移動)
大きなグラフを作成したい場合や、データ表とは別のシートでグラフを管理したい場合は、「グラフの移動」機能を使用します。
- グラフを選択し、「グラフのデザイン」タブの右端にある「グラフの移動」をクリックします。
- 「新しいシート」を選択し、シート名を入力して「OK」をクリックします。
- グラフ専用の「グラフシート」が作成され、シート全体にグラフが表示されます。印刷時などに便利です。
データの更新と範囲の変更
Excelのグラフは、元データとリンクしています。そのため、元データの数値を修正すると、グラフにも即座に反映されます。
データ範囲の変更
データ項目が増減した場合は、グラフの参照範囲を変更する必要があります。
グラフをクリックすると元データ表に色付きの枠線が表示されるので、これを操作します。枠線の四隅にあるハンドルをドラッグして範囲を広げたり狭めたりすることで、グラフの対象データを直感的に変更できます。
また、「グラフのデザイン」タブの「データの選択」をクリックし、ダイアログボックスから詳細な範囲指定や、系列の追加・削除を行うこともできます。
目的に応じたグラフの使い分け
Excelには多数のグラフ種類が用意されていますが、データの性質や伝えたいメッセージに合わせて適切な種類を選ぶことが重要です。
棒グラフ(縦棒・横棒)
用途: データの大小比較、ランキング、推移。
最も基本的で汎用性の高いグラフです。時系列の変化を見る場合は「縦棒」、項目名が長い場合やランキングを表示する場合は「横棒」が見やすくなります。
折れ線グラフ
用途: 時系列の推移、トレンドの変化。
時間の経過に伴うデータの増減を表すのに適しています。複数の系列を重ねることで、動きの違いを比較できます。
円グラフ
用途: 全体に対する構成比(シェア)。
「100%」に対する内訳を示します。項目数が多すぎると視認性が下がるため、主要な5〜7項目程度に絞るか、「その他」としてまとめるのがコツです。
散布図
用途: 2つのデータの相関関係。
縦軸と横軸に異なる変数をとり、データの分布状況を見るために使用します。品質管理や分析業務で頻繁に使用されます。
まとめ
Excelでのグラフ作成は、単に図を作る作業ではなく、データを「情報」として正しく伝えるための重要なプロセスです。基本手順である「データの準備」「選択」「挿入」をマスターし、軸ラベルやタイトルなどのカスタマイズを加えることで、読み手にとって親切で分かりやすい資料となります。
また、複合グラフやグラフの種類の使い分けを理解することで、より高度なデータ表現が可能になります。作成したグラフは、Excel上だけでなく、PowerPointやWordに貼り付けて活用することも多いため、ぜひ習得しておきましょう。